箱の棚

何も知らないので知ったことを綴ります

プラトンの著作を写本で読みたい

web上で見られるプラトンの著作の中世の写本をまとめます.

少しばかりの前置き

プラトンの著作を原書で読む

 プラトンは紀元前4-5世紀の哲学者で,現在のアテネの辺りで活躍しました.プラトンはその思想を古代ギリシア語で記し,その全てが現在まで伝わっています.ただし伝わっていると言ってもプラトンの手書き資料が直接伝わっているのではなく,残っているのは手で写し取られ伝搬していった写本や,中世以降に印刷された版本です.それらの資料は表現などに異同があるため,近代・現代の文献学者の方々が更にそれらの資料を元に校訂を行い,校訂本を出版しています.現在,プラトンの著作を原書で読むといった場合には,この校訂本を読むことを指すことが多いかと思います.

プラトンの校訂本

 プラトンの校訂本として最も参照される基本文献はOxford Classical Texts(オックスフォード古典叢書,OCT)かと思います.対話篇によっては旧版と新版の2つの版があります.邦訳も殆どこのOCTを底本としていることが,邦訳本の凡例などから確認できます.このOCTを使うと,欄外の註で単語の異読も参照できるため,直接写本を参照する必要はないかもしれません.

写本も見てみたい

 とは言っても必要・不要に関係なく,昔の写本を見てみたいという気持ちは起こるものです.内容や表現への興味は勿論,中世のギリシア文字の字体や書体を目にするというのはロマンがあります.それに,OCTを用いて異読を検討するとしても,その異読が生じた経緯を考えてみようと思うと,実際の写本での書かれ方を見ておくのは助けになりそうです.幸いなことに,現在は世界中の図書館が所有している写本の多くをweb上で公開していますので,専門家でなくても写本を確認することができます.以下ではそんなプラトンの写本を紹介したいと思います.

プラトンの写本

Codex Parisinus graecus 1807

 通称A写本と呼ばれる写本です.9世紀に書かれたもので,現存するプラトンの写本としては最古のものと見做されています.内容は,テトラロギア*1の8,9で,特に『ポリテイア(国家)』の重要な資料です.現在はフランス国立図書館が所有しており,下記のリンク先で見ることができます.pdfもダウンロードできますが,拡大して見たい場合はwebの方がより良いかと思います.また,リンク先のNotice du catalogueで写本の概要を知ることができます(フランス語ですが…).

gallica.bnf.fr

Codex Oxoniensis Clarkianus 39

 通称B写本と呼ばれる写本です.その奥書によって,895年に輔祭アレタス(後のカエサレア大主教)の命で書かれたことなど,詳細が判明している貴重な資料です.1801年にケンブリッジ大学の鉱物学者E. D. Clarkによってエーゲ海パトモス島のカリュプソ派修道院で発見されました.内容はテトラロギアの1~6です.オックスフォード大学ボドリアン図書館が所有しており,下記のリンクから見ることができます.

digital.bodleian.ox.ac.uk

 また,写本を写真で収めた書籍が1898年に出版されており,コロンビア大学図書館がInternet Archive上に公開しています.

archive.org

おわりに

 いかがだったでしょうか.以上2つの主要な写本以外にも多くの写本が公開されていますので随時更新したいと思います.

*1:プラトンの著作を悲劇の構成に倣い4部作ずつにまとめたもの.詳細はプラトン全集 - Wikipedia等.

ブログのタイトル

本ブログのタイトル「箱の棚」ですが,どういう意味でしょう.

 

箱でできた棚とも取れますし,箱を収めた棚とも取れますし,箱の中にある棚とも取れるかもしれません.

「箱」という名前の人がいれば,箱氏が所有している棚とも取れますね.

 

こういうことを考え出すと,自分の言葉が他人に適切に伝わっているか不安になります.

 

では,本ブログのタイトルの意味はと言いますと,特に何も考えず,好きな言葉の「箱」と「棚」を「の」で繋いだだけです.